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この恋、終わるか始まるか。

30話 予測不可能 回避…?

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30話 予測不可能 回避…?



*****

「どうぞ、食べられますか」
「ああ。ありがとう」
「……味の保証はしませんよ」

冗談交じりに、けれども本音を告げる。
見栄えは悪くない料理を悠一は匙で掬い、口をつけた。それを咀嚼すると「料理できるの、知らなかった」とふたたび言う。

「意外でしょ」
「まあ、でも美味いよ」
「……どうも」

飾り気のない実直な褒め言葉に要は愛想悪く返す。
ここで可愛らしく照れた風にでも笑えれば良かったけれど、生憎そこまでの余裕はない。

そばにいても気まずいだけなので、黙々と食事をしている悠一から離れ、先ほど使用した料理道具を片付ける。コンパクトながら使い勝手の良いキッチンは、それほど時間はかからず片付けが終わってしまう。そもそもお粥を作る程度で、片付けが必要になるほど汚れない。

要は野生動物でも観察するように、ちらりと悠一に視線を投げた。彼は出されたものに文句は言わない主義なのか、とくに何を言うでもなく、もぐもぐと行儀よく口を動かしている。胃に食べものが届いたおかげで、心なしか先ほどより顔色は良くなっている。けれども、やはり体調が悪そうだ。

(あ……熱、とか計らなくていいのかな)

そこまで世話を焼いていいものかどうか悩んでいる間に、食べ終えた悠一が「相沢」と静かに声をかけてくる。

「ご馳走様」
「いえ、食べられてよかったです」

差し出して来た食器を受けとり、要はもういちどキッチンに向かう。なんとか付け足せた気遣いの言葉は、文章にすればやさしいが、自分のそっけない口調ではどうもそういう意味には聞こえなかった。

容器を洗う水音だけが、この部屋に流れていた。会話がないのは仕方のないことだ。だって、こうして一対一できちんと話すのは、あのとき以来だ。
状況が変わってしまえば、リセットも同然で、今日が初めてと言っても過言ではない。そんな間柄では当り障りのない話題すら、相手に振ることができないし、よしんば話しかけられても会話はきっと続かないだろう。

洗い物を終えた要は、今度は己が野生動物にでもなったかのように、悠一の様子を窺うため振り返る。すると、ソファーに寄りかかり眉間を押さえている先輩の姿があった。まあそれもそうだ。要が来なくてはいけないほど、今日の彼は弱っているのだから。

食事をしたローテーブルの上に体温計があるのを見つけ、さっと悠一に差し出した。無言でも「計ってください」という意思は伝わったらしく、彼は黙って体温を測った。

しばらくすると、ピピピとお決まりの音が鳴る。要は悠一がそれを確認する前に、体温計をひったくるようにして奪う。どうせ何度だろうが「たいしたことはない」というのは目に見えている。

「38度2分、立派な風邪ですね」
「……そうだな」
「後片付けはやっておくので、早くベットに行ってください。寝てください」

呆れたように言う後輩にさすがの悠一もバツの悪そうな顔をする。その表情になぜか溜飲が下がる思いがした。片づけを申し出た──というにはぞんざいな口調だったが──要に対し申し訳なく思っているのか、彼はなかなかソファーから立ち上がろうとしない。

もう一度、小言を言うべく悠一に視線を向ける。ぎょっとした。色素の薄い彼の瞳は、射抜くように要を見つめていた。

その視線の熱さと重さに要はどうして良いか分からず、ただ冷たく「何ですか」と言う。悠一はなおも強く見つめたまま、妙に耳触りのよい声で「相沢」と名前を呼ぶ。

「だから、何ですか」
「お前は……」
「? はい」
「俺のことが嫌いじゃなかったのか」

心に直接、放り込まれたようにすうっと言葉が沁みこむ。

この男前は、真面目くさった顔で何を言っているのだろう。

疑問形なのか、それとも事実確認なのか判断しかねる。ただし、どちらにしても追及されたくないセリフに要は表情をゆがめた。如何にも嫌そうに眉を寄せる姿を物ともしない彼は、平坦な調子で「嫌われていると思っていたんだ」と続ける。

(その口ぶりだと……俺に嫌われたくなかったように聞こえますよ、”先輩”)

熱があるのは、知っている。かなりの高熱だ。それに加えて頭痛もあるのだから、若くて体力のある大学生でもいささか弱っているのだろう。分かっている。だから、思わずと言ったようにことばを零してしまったことくらい。その言葉に大した意味もないことくらい。

でも、こちらは素面なのだ。”熱があったから”なんて理由では、許せない。

(こうなるから、避けてあげてたのに)

抑え込んでいた熱情が、ついにこぽりと表面まで溢れだす。

「好きですよ」

ソファーに腰掛けている男へ、上から放り投げるように言う。はっきりと言い切り「それはlikeでしょう」なんて陳腐な逃げ道はふさいでやる。さっきまでのそっけない口調とは打って変わり、隠しようのない”色”をにじませた声に悠一は顔を上げた。

視線が絡んだそのとき、冷え切っていた室内の温度が急激に上昇する。

肌で感じた悠一は、要の思惑を察知したのだろうそれを制止するように「相沢」と呟くが、所詮は熱に浮かされている立場だ。起き上がろうとした肩を突くようにして押し倒す。反射で手をつくその動きを利用して、スウェットから覗いていた引き締まった腰の上にまたがる。

(あァ、熱い)

やわらかな素材の布越しに感じる身体は、見た目通りに筋肉質で、男らしい。そっと指先でたどれば、隆起した筋肉の躍動を感じることができた。服の下の肌を確かめたい気持ちを抑え、要は押し倒されてもなお、無表情を崩さない男にぐいと見せつけるように整った顔を近づける。

ふたりの体重を受け止めたスプリングは、悲鳴を上げるようにキイと音を立て、この誘惑的な雰囲気を増幅させた。わずかに聞こえる布擦れと相まって、それは生々しい情事の雰囲気を醸し出す。

そして、反応も抵抗もしない悠一の左耳に吐息で告げる。

「”男好き”なんて言われているような後輩のまえで、よくそんなに無防備になれますね」

濡れた声で囁き、一言も取りこぼさないよう丁寧に形の良い耳に流し込んでいく。とろとろとしたそれは、男をその気にさせるには十分な威力があったが、残念ながら彼の牙城を崩すには至らなかった。

「7,8割のなかの真実か?俺は知らなかった」
「…あなたのこと、そういう目で見てるとは言いましたよね」
「恋愛対象に入るならば、自然なことだろう」

甘い男ではないとは知りつつも、たいして戸惑いもしない悠一の態度にプライドが刺激された。
苛立ちと興奮は紙一重。要は得体の知れない高揚感を感じながら、媚びるように彼の腿のあたりに足を絡ませると「おい」と牽制するものが聞こえる。

そんなの、知らない、聞こえない、もう遅い。

でもわざわざ「手遅れですよ、先輩」なんて忠告してやるほど、要は良心的な性格をしていない。このシチュエーションで「やめろ」と言う方が野暮なのだ。こちらが女性だったら、相当に恥をかかせることになる。それは、生憎男の要には通用しないけれど。

先程、目を奪われたあの逞しい肩のラインを今度は、視線ではなく、掌で触れた。肩から胸、そして晒されている鎖骨に手を這わそうとしたとき。それまで、されるがままだった悠一が宥めるようにその腕を捕えた。要はその手を振りほどこうとはしない。むしろ愉快がり、それなら、と絡ませていた脚を使い、器用に男の腿をさする。決して露骨な部分には触れず、焦らす仕草で腰をゆらした。

「ふふ」

まだ太陽は空に浮かび、電気すら消していない室内で淫靡な行為が行われ、背徳感にも似たしめっぽい空気に支配される。けれど、理性を乗っ取られることのない悠一は、捕えた腕にぐっと力を込める。拒むというよりは、制止する程度のやさしい力加減に笑いがこみ上げた。

ククと猫を真似て喉を鳴らすと、人並み外れた良心を持っている彼は、静かに告げた。


「やめておけ」






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