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この恋、終わるか始まるか。

31話 やめておけ

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31話 やめておけ



*****


「やめておけ」

──やめておけ?

発された言葉の意味を噛みあぐね、一瞬、要の動きが止まる。ここは普通「やめろ」という状況ではないのか。あくまで、酷くは拒絶しない悠一を皮肉るように今度は鼻で笑う。

「やめるわけないでしょう」

この状況で。
付け足された言葉ともに唇をなめる。その媚態を悠一が見ているのを実感し、本心から笑みがこぼれた。

(楽し、い)

男が──悠一が自分を見ているのが奇妙なほど心地よい。たとえ、その目に情欲が浮かんでいなくとも、少なからず翻弄できていることが神経を高ぶらせていた。こんなに”イイ男”を自分の手で心を揺さぶることができるなんて。

馬乗りになったまま見下ろすこのシチュエーションは、筆舌には尽くしがたい。要はサディストではないが、男の本能である征服欲がひどく満たされる気がした。

見上げてくる悠一の猛禽類を思わせる瞳はぐっと細められ、形の良い眉は寄せられている。その表情がいやにセクシーで「ああ、良いな」と思った。そして、咎めるために掴まれた腕からじんわりと浸食してくる熱された肌は、すこし汗がにじんでいる。大きな掌が、要の男にしては華奢な腕をすっぽりと収めているのがたまらない。

ピン、と糸を張りつめるように背筋に悪寒が走る。それは、慣れ親しんだ感覚だった。

この精悍な顔が快感に歪んだところが見てみたい。
この均整のとれた身体で抱きしめられたら、どんな気分なのだろう。
熱を帯びた肌を自らの力で昂らせられたら、欲に濡れた瞳を向けてくれたら──自分だけを見てくれたら。

(抱かれたい)

好きか嫌いか、で訊かれたら間違いなく嫌いだと答える。ただ、眼前に在る”男”はあまりにも魅力的だった。
濡れ光る唇で「フフ」とうたうように零した要は、掴んできた腕の筋肉を辿るようにスラリと長い指先でなぞる。浮いた血管に這わせ、細胞のひとつひとつを感じさせるように、なまめかしくすべっていく。

「カラダ、熱いですね」
「……熱があるからな」
「せんぱい、鍛えてるんですか。けっこう、筋肉ありますね」
「お前よりはな」
「この腕に抱かれたら、気持ちイイでしょうね?」

あざとすぎる娼婦まがいのセリフに悠一は唇を引き結んだ。何かを言うのを必死でこらえているように見える。

おそらくは悪い方面の言葉だろうから、要は続きを言わせないために彼の唇に人差し指を添え、己のそれを舌でなめて濡らした。ほとんど無意識と言っても良かったが、その所作を見せつけられた悠一はまた「相沢」と低い声で名を呼んだ。背筋をたどった快感が甘い声を出す。

「センパイの声、格好良い。低くて、男らしくて、ゾクゾクする」
「そうか」
「キスもうまそうですしね?」
「どうだろうな」

ねだるように舌をちらつかせても、彼はノってこない。それもそうだろう。悠一は紛れもなくノンケであり、あんなに素晴らしい彼女がいるのだから。それでもここで止めてやる気はさらさらない。

(しっかし余裕だな………)

初めこそ、戸惑い、眉をしかめた悠一だったが、いつの間にかペースを整え、要の口説に迷うことなくセリフを返してくる。それも不穏な空気へ流れて行かないように、あえてはぐらかすそれを選び、連ねていた。

これは相当に誘われ慣れているなと邪推してもおかしくはないと思う。頭が良く、構内での立場も確立しており、ルックスも申し分ない。加えて、この状況でも冷静でいられるポテンシャルの高さは、彼氏の顔とスペックを競い合い自慢したいだけの女子大生なんて、墜とすのは容易いだろう。無論、理性的な悠一がその気になればの話だが。

(セックスも上手そうだし)

そんな思いをひた隠すことなく、弄んでいた唇から耳朶へとスライドさせると、そのいやらしさに驚いた悠一がとっさに身体をひく。ようやくの反応に機嫌が良く目を細め、先ほど阻止されてしまった鎖骨へ、また手を伸ばす。

あと少しで、指先が触れる、そんなとき。

「冗談ですよ」

ぷつり、と糸が切れたような声を合図に、甘やかに絡みついていたはずの脚が嘲笑するように消えて行く。同時に悠一の身体を愛おしむように撫でていた手も、お役御免とばかりさっさと引っ込められた。そのまま要のもとへ戻り、今度は彼の両腕が絡み合う。

何の未練もなく去っていった淫らなそれに悠一は、思わず眉を寄せる。自らの腹の上に跨り続ける後輩の顔を見れば、氷の如き視線で”男”を眺めていた。その目は、とても冗談を言っている風には見えない。軽蔑をしていると言っても過言ではないほど、冷たい漆黒の瞳は、つまらなさそうにこちらを見つめている。

あまりの豹変ぶりに悠一は、耐え切れずため息を吐いた。

「冗談でするようなことではないだろう」
「あはっ…そうですね。すみません」

馬鹿にした口調は、彼の囁く声と相まって、プレイじみた行為を好む女王様のようだった。依然、男の身体に乗り上げた体制のまま、要は悠一を見下ろしている。しなだれかかるでもなく、ぴんと張った背筋は、むしろ触れるのを嫌がっているふうにも取れた。

まるで反省していない声色を咎めるより先に、要は感情の乗らない顔で言う。

「嫌なら突き飛ばせばよかったのに」

気持ち悪いでしょう。

要としては、そこに己の感情など含ませるつもりはなかった。ただ単に事実を述べただけで、決して答えがほしくて口にしたわけではない。本当に悠一が嫌がったのなら、すぐにでもやめてやるつもりだったし、体格も力もどう考えても要の方が劣っているのだから、引きはがそうと思えば出来たはずだ。

けれど、どうしても自虐的な──自身を貶めるような響きになり、悠一はそこで初めて怒りを露わにした。
未だ腰の上に陣取ったままの男を睨み上げるその視線は、以前にも見たことがある。いつか休憩室で鉢合わせたときだった。今と同じように要が己をごみ箱へ捨てようとしたとき、彼はこんな風に不快だと訴えかける顔をしたのだ。

(怒るなら、もっと違う場所に怒るべきでしょう)

男の後輩が性を匂わせた所作で、身体に触れているのだ。そちらに関して、言うことはないだろうか。今の行為よりも、よほど嫌そうな表情に要は「お人よし」と吐き捨てるように胸中で罵った。何も言わず視線を受け止め続ける要は、悠一の思いを理解していないと感じたのだろう。彼は努めて冷静な声を出す。

「そういう言い方はやめろ」
「ふふ、先輩さんやさしー」

それでも自嘲をやめない要に、ふたたび言い聞かせようと口を開いたところで、悠一の忍耐が切れた。糸を切ったように身体から力が抜け、制止するために掴んでいた彼の腕から手が離れる。それを温度の低い目で見届けた要は、ゆるりと口角を上げた。

「頭痛、ひどいんでしょう? 早く寝たほうが良いですよ、センパイさん」
「お前っ!──くッ」
「ふふふ、いくら体力に自信があっても無理は禁物ですよ。人間の体は、たとえその持ち主でも、コントロールできるようには作られていませんから」

すっかりいつもの調子に戻った、青年のそっけない声を聞いたところで、悠一の意識は途切れた。

だから、もちろんその後につぶやかれた「おやすみなさい」の悲しい響きを、

彼は聞くことができなかった。






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