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この恋、終わるか始まるか。

秘密の代表様

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秘密の代表様



*****

昼下がりの休憩室。
奇跡的にも、全員が同時刻にここを訪れていた。ようやく二度目の顔合わせとなる。

智紀は「時間ありますか?」と問い、頷きを返されたとたん、全身にハッピーをまき散らした。鼻歌を歌わんばかりに飲みものの用意をし始めている。お茶会でもする気か。この面子で。

ついぞ見たことのない満面の笑みだ。悠一はこれが通常運転だと思っているのか、引いた様子もなく紙に書きつけていた手を止めている。
手伝いましょうかという口すら挟ませない、智紀の手際を呆けた顔でながめていたら、つかさず口を開く。

「相変わらず"集会"はありますか?」
「ああ」
「大変ですね。そういえば、教授がこうなるのを予感して、宮センパイは釘刺してたって言ってましたけど、なんで騒ぎになるってわかったんですか?」

たしかにそんなことを言っていた気がする。スピーチに関しても、本人は「騒がれるのが嫌だから断った」とうんざりしていた。ロブは面白おかしく言っていたが。

いささか興味を惹かれて悠一を見る。彼は突然の質問にもうろたえることはなく「単純な話だ」と言った。

「普段表に出ない。それだけだ」

少ない説明ながらも要は納得がいく答えであった。身に覚えもある。しかし、涼はピンときていないらしく「えっと」と質問を足す。

「せんぱいは、代表さんなんですよね?表にでない…物珍しさってことですか?」
「そうとも言えるが…俺の場合は、素顔を晒す機会がなかったからな」

またもや、あっさりとした暴露。
事実代表挨拶を廃止し、表舞台はほかの者にすべて譲り、それを是とするルールもつくった。けれども、本人の口から明かされるのはまた別だ。そうだろうなという確信はあっても、こうも軽々と構内七不思議のひとつを解決させられてしまうと、動悸がするのだが。

飲みものを入れた智紀が、全員に「できましたー」と湯気の立つ紙コップを配る。本当に何の手伝いもしなかった。良いのだろうかと気まずい思いで受け取る要をよそに、涼はにこやかに「ありがとうございます!」と言っていた。彼ほど愛嬌があると笑顔が礼代わりになるから、大したものだ。

同じく受け取った代表は、当然だが遠慮することはなく、軽く手をあげることで礼を言った。様になっている。

「我ながら突飛なことをしていると思う。前代表は、意欲的な方で、よく表舞台にも出ていた」

智紀とともに苦笑いをする。しかし、覆面代表しか経験のない1年生だけは「そうだったんですか!」と素直に声をあげる。

「あ、でも、たしかに代表の顔知りませんでしたけど、とくに疑問はありませんでしたね。普通なのかなって」
「そうか。例年は際限なく顔出しを行っていたが、かえって新入生には馴染みがないかもしれんな」
「偶然とはいえ、お会いできたのってすごいことなんですね!うれしいです」
「おれも!めっちゃ気になってたんですよね、歴代の代表ってめっちゃ顔出ししてたから。今になって急に顔出しNGで。なおさらどんな人なんだろ?って…あーすみません」

それのせいで、面倒をかぶっていると気づいた智紀はとっさに謝る。悠一はとくに気分を害した様子もない。どころか「気持ちは分かる」と肯定した。

「だからこそ、表に出なかったんですね」
「ああ」

一度隠してしまうと、智紀の言うような噂は広がる。人間という生き物は、秘密は暴きたくなるものだ。隠されると、その奥にお宝がある気がして、ますます興味を惹かれる。

ふと気づいて、恐る恐る声を発した。

「つまり…代表であることを隠していたわけではないってことですか」
「そうなるな」
「んん?どういうこと?」

智紀はこちらに顔を向ける。説明を求められているのは分かるが、本人がいるのに自分が答えていいものかと盗み見れば、構わないとばかりコーヒーを手にしていた。

「代表をしているのを隠していたのは、それがバレたくないからじゃないんですよ」
「バレてもよかったってこと?」
「です、よね?」
「ああ。問題は、代表であることによりある"リスク"のほうだ」

これがなければ、公言しても問題はなかった。
無表情のなかにわずかに苦みが走る。これは相当苦労されているなと想像できた。

この大学の"代表"は活動内容にかかわらず、ある種ブランドだ。
特別な立場で、注目を浴びやすく、表舞台に出ることも度々ある。任命された暁には、地元の新聞にも小さく載るし、大学のパンフレットひいては広告塔として取り上げられることも少なくない。

それゆえ、もとから周囲の支持があり、見目の整った者が選ばれやすいと聞いたことがある。噂でしかないが。あながち嘘でもないと思う。昨今はスポーツ選手だってルックスが求められる時代だ。スポンサーが付きやすいから。

そういった背景もあり、歴代の代表は須らくアイドルじみた扱いになっている。
その最たる例が今の状況だろう。ただでさえ、仕事に時間を追われている上、貴重なプライベートまでも犠牲になる。悠一の言う"リスク"とはこのことだろう。

かいつまんで説明する。
智紀と涼は、くるくると表情を変えながら聞き入っていた。すこし兄弟のようで面白い。はえーと感心したふたりを置いて、悠一をちらりと窺う。

「えっと、合っていますか?」
「ああ。随分と的確な説明だったな。過去に経験があるのか」
「とんでもない」

生まれてこの方、リーダーという立場になったことはない。ただ気持ちが分かるというだけで。

「…苦労されますね」

心の底からそう思う。あまり彼と口を開きたくない要でも、そんなふうに漏れてしまった。悠一は否定も肯定もせず、わずかに眉をあげることで返事した。

「だから、代表バレ確定イベント以外も避けられていたんですか?」
「それは関係ない。好まないだけだ」

騒ぎにならなかったとしても、断ったという。本当に目立つのが嫌いだったのか。立場上、騒がれては迷惑なのかなと想像していたが、単に個人の性格だったらしい。

智紀は聞きたかったことが知れて満足そうだ。にっこり笑って、フォローに走る。

「そうでしたか。で、宮センパイとくりゃ話題にもなるか。イッケメンだもんなぁ」
「一過性のものだと思うが。迷惑をかける」
「とんでもない!お知り合いになれてうれしいです。役得ですね」

純粋に喜んでいる様子のふたりに「そうか」と短く返す。とりわけ智紀はキラキラとした目をしている。この人もけっこうミーハーだと思うんだけど、良いのかな。一歩間違えば口を滑らしそうだが。

手ずから入れた紅茶に、ほぼ口をつけないほどしゃべりに夢中になっているし。要はむしろ、話す回数を減らすためのアイテムとして最高だなと思っている。

「仕事とかってどこでしてるんですか?」
「専用の部屋が設けられている。基本はそこで。…問題は、ミーハーな役員がいることだな」
「役員にも知らせていないんですか」

さすがに徹底しすぎではないかと目を瞠れば、ため息で答えられる。

「うちの執行委員の規模はそれなりだ。役員も、広報や庶務を含めると人数は多い。…すべての者の口が堅いとは限らんな」
「中には知っている人もいるんですよね」
「近しいものには話している。ごく一部を除けば、知っていることになるな」

友人にも別段隠していないと明かす。それならば、初日のカミングアウトもおかしくはなかったのか?…いややっぱり大胆だと思う。

清水はそうなんですねと相槌を打ちつつ、疑問をこぼす。

「ハンコ押すような書類、困りませんか?」
「…困らないといえばウソになるな」

中には持ち帰ってはいけない資料や、その日のうちに片付けなければならない重要書類もあるだろう。自分で決めたこととはいえ、難しい誓約のもとこなしているなと驚いた。

智紀も似たような表情をしたが、すぐに笑みを取り戻し「だったら」と提案する。

「ここで、お仕事したらどうですか?センパイが嫌じゃなかったら」
「いいのか?」
「ええ。俺らだったらもう知ってるからバレることもないし、とーぜん誰にも言いません」
「任せてください!」

こう見えて口は堅いんですよと、ふたりして口元に指をやる。しーっと茶目っ気のあるしぐさに、悠一は少しだけ頬をゆるめた。ほっとしているように見える。
ただでさえ責任のある立場の上、常に気を張るのは、精神力が強くともこたえるだろう。とくに、彼は追い回されて気が休まらない状況にある。

要も、学生のため──ひいては自分のために活動している悠一を妨げる気はない。僕も言いませんと小さく言えば、智紀が待ってましたと言わんばかり身を乗り出してくる。

「おまえは、言うやついないじゃん。友達いないもん」
「うるさいですよ。いなくても、外で大声で話さない保証はないでしょう」
「それこそ出来なそー」

きゃらきゃら笑う智紀に青筋が立つ。

「そうなのか?」
「…はい?」
「騒ぎ立てるようには見えないが」

え、なに友達はいそうってこと?
この人、見る目ないんだなと同情的な気分になった。しかし「いません!」とそれこそ大声で暴露するのはいかがなものか。黙り込んでいると、涼がフォローに回ってくれた。

「ここにはいますよ、友達」
「そうか」
「要せんぱいは、そうじゃなくても勝手にバラしちゃう人じゃないので、だいじょうぶです!」

本当にめちゃくちゃいい子だなこの子は。智紀と違って。
止まない爆笑に耳が痛くなりながら「はい」と念押しの肯定をした。関わり合いたくないのは、要の個人的な理由であって、それゆえ悠一にいらぬ心配をさせたくはない。

涼の口添えもあり、信頼を得られたらしく、悠一は「助かる」と受け入れてくれた。


「改めて、これからよろしく頼む」

面倒をかける。
真面目過ぎる代表を、三者三様のまなざしで、頷きを返したのだった。







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