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この恋、終わるか始まるか。

10話 和泉の来訪

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10話 和泉の来訪




*****

「要ちゃん、あっ智くんも!久しぶりー」

行儀よくノックしたにも関わらず、自ら扉を開けて入ってきたのは、智紀の言うとおり和泉だった。

相変わらずのテンションの高さと、聞き慣れた声に、苦笑しながら「久しぶりって言うほど時間たってないでしょ」と雑ぜ返す。返しながらも無意識のうちに思う。

(やっぱり…キレイだな)

記憶に違わず、今日も和泉はうつくしかった。
こぼれ落ちそうなタンザナイトの瞳。さらさらと頬をすべる髪は、男にしては長めのボブヘアー。そのまばゆいばかりの銀のかがやきは、中性的でつくりもののように整った和泉の顔に不思議とマッチして、人間離れした美しさを際立たせていた。ほっそりした長い手足も、はっとするような白い肌も。なんだか切ないくらいきれいだ。

(比べるもんじゃないって分かってても、落ち込むよなぁ。天は何物を与えてるんだよって)

久しぶりの再会なのに、黙りこくってしまった要を見て、和泉は柳眉をよせた。

「えー、まあそうだけど。冷たいなぁ。もっと喜んでよ」
「十分喜んでるよ」
「そうですよ!相沢ってば、和泉くんに会いたくて何日か前からイライラしてて…おれもう大変だったんだよー」
「本当ー? 嬉しいなぁ」
「しれっと嘘つくなよ」

冗談だと分かっているくせに、ノリ良く受け答えをする和泉に改めて、相変わらずだなと思う。瞬間、ぶわっとなつかしさがこみ上げた。
自立がしたくて家を離れたけれど、やっぱり一抹の寂しさはある。だが、口にしては甘えてしまいそうで素直に伝えられていなかった。お見通しだとは思うが。

限りなく整っているのになぜか親しみのある…見慣れた横顔を無意識に見つめていたのか、智紀の近状報告を笑みで聞いていた和泉が、こちらの視線に気づく。

「要ちゃん、元気だった?」

銀髪碧眼の人形のような彼から飛び出す流暢な日本語は、シュールなことこの上ないが、もう慣れてしまった。その点で言えばロブも同じ事だ。

「まあね。和泉は元気そうだね」
「あはは、でしょ?」

にっこりする。
和泉の笑顔はずるいのだ。要を簡単に包んでしまう。

(だからこそ、あんまり会いたくないんだけど)

しかしいざ彼の姿を見ると、まあ多少ネガティブにはなったものの、覚えたのは確かな安心感だ。ほっとして肩の力が抜ける。

何の前置きもなく、唐突に和泉が抱き着いてきた。それなりの勢いを伴った華奢な身体を、驚きつつも転ばないよう受け止めた。きらりと光る青い瞳と目が合う。

「元気ならよかった。会いたかったんだよ、要」
「…俺もだよ、和泉」

会いたかった。
その何気ない一言で、自分はまた少し、生きられる。誰かに求められることほど、今の要を支えてくれるものはない。

うそ偽りのないその言葉に同意すると、和泉は嬉しそうに目を細めてから身体を離す。彼のことは信じられる。逆に言えば、そのほかの人間に心を許すのは、まだ苦手だった。

(俺、先輩たちのことも好きなんだけどな)

”好き”と”心を許す”は違う。そのことを、要はまだ理解することができなかった。

勝手知ったるこの部屋で和泉は一通りの報告を終えると、ためらいなく椅子に腰を下ろし、智紀にお茶をねだっていた。その姿がいつもの自分と重なり、胸中で苦笑しながら、要も隣に腰かける。
命令された智紀と言えば文句ひとつこぼすことなく、むしろ嬉しそうに「はい」と一言、紅茶を淹れ始めた。さっすが好みもわかってる。仕方がないとはいえ、要のときとはまるで態度が違う。

(やっぱり、ご要望通りもうちょっと甘えたりしてみようかな)

そう感じるほどである。

和泉は座ったときにわずかに乱れた髪を撫でつけながら、思いだしたように要を見やる。

「あ、ねぇ要ちゃん」
「何?」
「ロブは元気? この前、来たときも会えてなくて」
「んん、元気なんじゃない。今日も講義の終わりに鬼のように課題出して、にやにやしてたし」
「わー、それは元気そう」

若干引いたように表情をしかめたものの、ロブらしいかと一人納得している和泉。智紀はティーカップの上で、液体の落ちる、やわらかな音を作りながら疑問を呈する。

「和泉さんって、教授とお知り合いなんですか?」
「んー、うん。知り合いっていうか……知り合い」
「ふ、何それ」
「や、なんか的確な関係性が思いつかなかった」
「へえ。でも知り合いだからって、よく鍵盗めたよね」

和泉は声を出して笑いながら「盗んではないよ」と訂正した。

「まあ、確かにわれながら”ちょうだい”って言っただけで、あっさり部外者にくれるとは思わなかったよ。今日のこれもね」

これと言いながら、関係者の証をつつく。首から下げるスタイルの通行証だ。要はあきれながら「いいのかねぇ」とつぶやく。和泉も「ね」と軽い口調で深く同意した。

和泉は部屋を管理しているロブからちゃっかり許可をもらって、鍵を所持している。ロブがこの大学の講師になる前からの知り合いだった、というのは聞いた話だが、いささかセキュリティーが甘すぎる気がする。いや、甘いのは和泉に対するロブの対応か。

ロブといい、イクトといい、和泉は底の読めない人に好かれる傾向があるらしい。智紀に言わせてみれば「お前もな」らしいが。

話に区切りがついたところで、智紀が静かに紅茶を要たちの前に置いた。ありがとう、とカップに口をつける和泉に習い、要も礼を言う。

「今日はとくべつな」
「はいはい」
「あっさり受け取るんじゃないよまったく。いつもはやってもらってないでしょうね、君」
「ちゃーんと、お茶汲みしてるよ」
「10回に7回くらいな」

智紀が席に着いたため、会話は自然と休憩室メンバーの話になる。その時点で微かに顔が引きつった。智紀のことだ、黙っていてはくれないだろう。

(ま、でもさすがに俺のことまでは言わないでしょ)

智紀は、絶対に和泉が傷つく可能性のあることは言わない。彼の性格上、確かだ。先輩である智紀の失敗談に花を咲かせていると「そういえば」と前置きする。

「最近、新しい方が入られたんですよー」
「へえそうなんだ」
「そう、イケメンだよ」

来ると分かって、腹をくくっていたからか、心は揺れなかった。けっこう自然だったんじゃないか。つけたされた要の言葉に「ってことは男の人なんだね」と和泉が頷く。

「はいー、先輩さんなんですよ」
「えー、そっか。あ、俺がいたらびっくりしちゃうかな」
「どうでしょうねぇ」
「しないんじゃない」
「ふふ、しない人なんだ」
「でも説明しとかないと、あとあと困るよね」

要の言葉が言い終わった瞬間、良いとも悪いともいえるタイミングで扉が開く。その場にいた三人の視線は、入ってきた長身の影に集まる。2メートルに差し迫る大柄な体躯と、きつめの目つき。風になびくはド派手な赤メッシュ。


その影は言わずもがな、宮先輩だった。







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