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この恋、終わるか始まるか。

11話 偶然の合流

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11話 偶然の合流





*****

悠一は、自分に集中する視線を一身に受け止め、その質量に圧倒されたのか、ドアノブを掴んだまま静止した。

いつもならノックの音が響かない限り、誰かが部屋に入ってきても、メンバーたちはほとんど気に留めずに会話を続けることが多い。簡単な挨拶はマナーとしてするが、基本的には個々を尊重するため「楽が一番」「いちいち断りを入れなくても、好きに過ごせ」という空気だ。

しかし今日は、この部屋でよく見られる雑談は入ってきた悠一によって妨げられた。
その上、合計六つの、ふたつずつ色の異なる瞳に自分の姿を映され、さすがの代表もいささか対応しあぐねているのが伝わってくる。

初めて見る”無”ではない彼の表情に違和感を覚えつつ、それもそうだろうな、と同調した要だったが、どうやら茶と青の瞳を持つふたりの考え方は違うようだった。

「ふっふっふ、良いタイミングでいらっしゃいましたねぇ」
「は?」

いつも以上に深い笑みで発された智紀のセリフに、悠一は眉を寄せる。それと同時に、はっとしたように凝視した青い目を持つ物体の髪色に、今更ながらに気づいたようだった。

彼が驚くのも無理はない。他校に比べ、留学生が多い大学とはいえ、自身が交流する国籍の人は取っている単位や学年、そもそも言語の問題でかなり限られてくる。それ以前に、うちの大学にロシア人の留学生はいない。

一目で国籍を察することはできなくとも、地毛で銀色をしている髪の学生がいないことなど、代表として活動している悠一ならば、知っていてもおかしくはない。

ならば、この男は誰だ?と必死に頭を働かせている悠一は、もともと鋭い目つきをさらに細めた。悪気はなくても、目を眇められると筋肉質な体つきも相まってか、ふつうに怖い。
だが、目つきの悪い人間にいささか慣れのある和泉には、効果がなかったようだ。

未だ困惑したように立ちすくんでいる悠一を物ともせずに距離を縮め、普段となにひとつ変わらない、ふわりとした笑顔を浮かべた。そのまま、サラサラとことばを紡ぐ。

「初めまして。和泉蓮です。ここの学生ではないんだけど、ときどき顔を出すと思うから。よろしくね」
「ああ……」

大学の人に許可はもらってるから、安心してね。
茶目っ気たっぷりの表情で言われても、いまいち状況を把握しきれていないのか、依然険しい顔で返す悠一だったが、ふと整理が追い付いたらしく言う。

「コナーズさんが言っていたのは、おまえだったのか」

どうやら気の利く教授が休憩室メンバー同様、和泉のことまできちんと説明しておいてくれたようだ。なるほどな、と一人納得した彼は少しだけ表情をゆるめた。しかし、肝心の眉間のしわは消えていない。

(くせ、なのかな)

それなら、不機嫌に取られてしまうのはもったいないなと思う。人のこと言えないけど。

「そうだと思う。そっか、ロブが説明してくれていたのか」
「彼と知り合いなのか?…ああすまない、学生じゃないということは、年上だよな。失礼だった」
「お気遣いなく」

楽にして、という言葉に悠一はいささかの逡巡の後「甘えさせてもらおう」と言った。
相手からの提案とはいえ、よくあっさり飲めるものだ。秀治だったらこうはいかないだろう。自分はよくても、人に見られる可能性を考慮して「とんでもない」と笑顔で拒む気がする。そうすると、彼はあまり礼儀作法にうるさいほうではないらしい。

「智紀や清水くんのことも知ってるよ」
「全員じゃないか」
「あはは、ほんとだ」

スムーズに交わされる会話に、猛烈ないたたまれなさを感じた。

途端、目の前に広がったのは白と黒で隔たられた境界線。
それは自分にしか見えないと理解しているのに、今すぐ子供のように騒ぎ立てながらそうたずねて、和泉に「そんなのないよ」と笑い飛ばしてほしかった。怖かった。輪の中に入るのも、仲間外れにされるのも。わがままな感情が心を支配する。

「あ、そういえば名前。教えてくれない?」
「ああ、悪い。申し遅れたな。宮悠一だ」
「みやせんぱい? なんか可愛いね」
「そうか」

ふしぎな感性は外国人特有のものだろうか。否定も肯定もしない悠一に、和泉はからかうように言う。

「でも噛んだら”みゃー”になるね」
「カワイー」
「あだ名ですかぁ」
「いいね!これからは、みゃーせんぱいって呼んでもいい?」
「…好きにしてくれ」

初対面ながら、もう和泉の扱い方をつかんだのか、呆れたように了承した。和泉は、悠一の目をしっかり見据えて嬉しそうに笑った。

和泉はこういう人だと頭では分かっていても、このフレンドリーさ──と言っても良いのだろうか──には毎度のことながら脱帽させられる。こういうところが要が和泉に憧れる部分でもあり、絶対こうなれないないなと思う決定的な部分であった。

(あれ、待って。これ俺も呼ばなきゃいけないやつ?)

場の空気で「かわいい」なんて言わなければ良かったかもしれない。”先輩”と呼びかけたことすらないのに、いくらなんでもハードルが高すぎやしないか。──まあ、和泉も毎日ここへ来るわけではないし、大丈夫か。智紀にちょっかいをかけられるのは覚悟の上だ。
あだ名と言うのは、多少の差はあれど、人と人との隙間を急激に縮めてしまうものだ。それが目的なら有効かもしれないが、今は全力で遠慮したい。

そんなことを考えている中、互いに人見知りをしない二人はいつの間にか座って会話を楽しんでいた。KY──空気読めすぎる──先輩も「お茶、淹れ直しますねー」と言いながら、要のほうを向いてほくそ笑むという、地味だが確実に精神を削り取る、いやな攻撃をしてくれた。

コーヒーを頼むと注文を終えた悠一が要の方を見た。
色素が薄く、光の加減によっては茶色にも見える瞳が、要を捉えるとそのまま声をかける。











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