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小説

お疲れに癒しをあげる

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ダンスでも誘うように、軽やかに腕を差し伸べられた。なにも反応できずに固まってしまう。

「…こっちにきて」
「こっち?…こっち?」

座ってほしいのだろうか。そう思ったが、横になっているためあいているスペースはない。なのに詰める気もないから"こっち"がどこを指すのかわからず首をかしげる。

すると、秀治は何も言わず自分から肩をよせてきた。寝たまま近づくから落ちそうで、あわてて自分が壁になるように身を寄せた。待っていたとばかり、長い腕が肩にまきつく。頬を乗せて、耳をつけた。じんわりと体温が伝わってきて、はじめてくっつかれたことに気づいた。

甘える仕草に智紀は何も言えない。甘やかそうとした手前引けなくなってしまった。
その間にも少しずつ体勢を変え、おさまりのよい位置を探す。ぎゅっと力強く抱かれると、むしろ智紀の方がたくましい腕に守られているようだった。しかしもたれかかってくる心の重さを感じる。抱きしめ返すとか、いたわる言葉をかけるとか、気の利いたこともできずおっかなびっくり受け止めるのが精いっぱいだ。

(こ、こうなるとは…)

ウケ狙いというほど冗談ではなく、癒してあげようと胸を張るほど本気ではなかった。ただ、想像以上に秀治は疲れていて、そこにたまたま智紀が手を差し伸べてしまったんだろう。タイミングが良すぎた。

(あたまがふわふわする)

確かに体温を感じるし、筋肉質な腕のかたさも、部屋と同じ匂いも。でも非現実的に思えて、目の前の光景を、ただふわふわじんわり感じとることしかできなかった。
今思うとちょうどよかったかもしれない。もし正しく受け止めてしまったら、智紀はいつもみたいに叫んで飛びのいていたから。胸の鼓動だけが正常に音をはやめていた。

しばらくそうしていると、秀治が「智紀」とかすれた声で。

「ね、もっかい撫でて」
「ん?」
「さっきのきもちよかった」

さっき、頭を撫でたことか。
冗談だったんだけど、いやそのつもりだって向こうも分かっていて受け入れたように見えたんだけど。

抱き着かれて腕を回すことすらできていないのに、改めて触れるのが気まずくてちょっと渋る。けれど「お願い」とあのきれいな顔で頼まれたら、ただでさえ秀治びいきの自分は断れない。

(わかっててやってるんだろうけどさ。)

ちょっとこの人あざといところあるよな、とずるさを感じつつ思い切って手を伸ばす。
さらさらとした、絹糸のような艶のある黒髪。掬うと指のあいだをすり抜けてこぼれる。当たり前だが、男性の髪にがっつり触れたのは初めてで、女性と違うような同じような、やっぱり違う感触にふしぎな気分になる。

撫で方も何もわからなくて、ただただ上から下に動かしているだけなのに、彼はきもちよさそうに目を瞑った。

「動物みたい」
「智紀が撫でるの上手なんだよ、何か飼ってたっけ」
「なんにも」
「そうだったね、ネコカフェ行ったらモテるよきっと」
「…かわいい小猫ちゃんに?」
「その言いかただとチャラ男みたいだね」

先程よりも会話のテンポがよくなった。分かりやすく回復したらしい男に「もういい?」と声をかけたらあっさり断られる。照れが全くないところを見ると、開き直ってる。うらやましいとさえ思った。

(おれもこうやって甘えたら、しゅうじ喜ぶんだろうな。…俺がいやな気してないのといっしょで)

だからと言って、じゃあ自分も!という気にはならないが。

雑な撫で方のせいで、乱れてしまった前髪をなんとなしによけてやる。その拍子にまたまぶたの近くに触れ、気になっていたクマに目がいく。無意識に指が伸びる。

「そんなに目立つ?」
「そーでもない、よく見なきゃわかんないレベル」
「けど気になるんだろう」
「俺はね」

なぞって治れば、世話ないよなあ。でも整った顔にこれは似合わないから。
とれたらいいなと思いをこめて。もう一度だけ、さすった。途中でさわっと睫毛が手に触れた。すごい長すぎて目じりに触ると睫毛もさわれる。感動。

「…くすぐったいよ」

ぱっちりと目があけば、黒曜石みたいな目がこちらを見る。黒曜石みたことないけど、宝石みたい。
あまりに甘やかでちょっとビビる。ごめんと反射で謝れば、ちいさく笑った。秀治はそれ以上何も言うことはなくただゆったりと身を任せ、言葉をつむぐ。

「智紀ってこういう面もあるんだね」
「…それこっちのセリフなんだけど」
「なんで?」
「いや…だって、甘えてくるし。こんなんなかなかなくない?」
「そう?」
「そうって…なかったじゃん、今まで」

とぼけるかと思ったが、重ねれば「そうだったね」とうなずいた。
いいかなと思って、なんてささやく声は本当に吹っ切れた、ふわりと軽い調子だった。それは嬉しいけれど、どうせなら理由を説明してほしい。しかし水を差すのも嫌であいまいな相槌をして済ます。

「けど、何度か話したことあるだろ?素は甘えたがりだって」
「そんなん…たしかに聞いた気がするけど」

自分も対象になるとは思っていなかった。

今回は偶然目の前にいただけだけれども、年上ということに強い気持ちがある秀治は、自分にはきっと甘えてこないだろうと決めつけていた。だから、彼のように「甘えてほしい」とあえて口にしたことはなかったのだ。どこかでおこがましいさえ。

(…先に言ってよ、逃しちゃったじゃん)

もしかしたら、もっとチャンスがあったんじゃないのか。そう悔やむ自分はやっぱり変だなと思った。
複雑そうに口を歪める智紀を秀治は眺めて笑う。体は離さないままに、真正面に顔を持ってきて。

「喜んでよ、素を見れたって」

冗談っぽくわらうのがくやしい。こちとら本気で喜んでしまってる。

もう終わり!とわざと髪を乱してから手を離せば、からからと楽し気に声を出した。すっかり元の調子だ。よかったなと思う反面してやられたと思ってしまう。

「ねえ、またやってよ」
「遠慮!」

そんなことを言って頼まれたら、許してしまうんだろう。ほかならない秀治のことだから。













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ほむらさまへ


ほむらさん、お久しぶりです!
そして、おめでとうございます~~!

わ━━━━ヽ(*´ω`)人(´ω`*)ノ━━━━♪

どうなったかなーと気にしていたので、嬉しい報告が聞けてこちらこそ感謝感激です。
このサイトが少しでもお力になれていたのなら幸いです…!本当におめでとうございます(*´▽`*)

わたしもほむらさんのコメントで、更新の元気をもらっています。
落ち着かれたらまたお話してくださいね。待ってます(´▽`*)♡


コメント、ありがとうございました。

慈雨さまへ


慈雨さん、こんにちは~(*´▽`*)


お疲れシリーズいいですね!わたしもこれから呼ぼうと思います(ノ∀`笑)

わー!そう言っていただけると嬉しいです!
お褒めいただいてありがとうございます(ノД`)・゜・。

どちらかというと、よしよしするのは秀治さんのイメージでしたが、チェンジしましたね。
ふたりの関係性の変化を描けてわたしもすごく楽しいです。そして、お疲れシリーズ次回も考えているので、ぜひ慈雨さんに楽しんでほしいなーと思いました。そのときはよろしくお願いいたします(*´Д`)♡


コメントありがとうございました。
またのお越しをお待ちしております(´▽`*)

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