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この恋、終わるか始まるか。

17話 何系かと聞かれても

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17話 何系かと聞かれても





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智紀と連絡先の交換を終えて講義が行われる部屋に向かっても、講師はまだ来ておらず、開始まで猶予がある事を知った。胸を撫でおろしつつ学生たちがつくる喧騒を掻き分け、悠一は窓際の席へ腰を下ろす。

そんな姿を見て、真面目の域を超えやや神経質とも評せる悠一が、遅刻はしていないものの時間に迫られて入室してきたというのは、密かに学生らをざわつかせていた。もっとも、その騒ぎの示唆するものを悠一は知る由もないのだが。

本人の耳に入らなかった理由としては、悠一が平均的な人と比べ、いささか鈍感であるというのと、その後すぐに講師が顔を出したからだと言える。瞬く間に話し声と物音は消え、講師の合図で授業が始まった──のが今から約九十分前のことだ。

授業自体は嫌いではないのだが、やはり長時間にわたり固い椅子に座って、意識をひとつのことに集中させるのは精神を削り取られる思いだ。本日も無事講義という名の学生の仕事を遂げた悠一は、知らず吐息をもらしながら、スチール机の上に強い存在感を放っている今回の課題たちをまとめはじめる。

「宮!久しぶりだなぁ」
「鬼頭」

右後ろから飛んできた声の方へ首をめぐらせると、そこにはそれなりに仲の良い同級生の顔があった。
外で落ち合うほど交流はなく、最近は講義がかぶらないため会う機会は減っていたけれど、彼は変わらぬ調子で話し続ける。それに適当な相槌で返していると、鬼頭はふと思いついたように言った。

「そういえば、宮大変なんだって?追っかけがいるとかなんとか、話に聞いたけど」
「ああ。が、解決方法を提示された。今後はマシになると思う」
「おおよかったな」

内容は多く語らずとも納得してくれた。というよりどうやら興味はほかにいっているようで、なぜか小声で詰め寄られた。

「おまえ、ミスコンの実行委員になったんだって?」
「ああまあ」
「マジか!いいなぁ、うらやまし~」
「そうか?」

しみじみと呟く彼にそう聞き返すと、呆れた顔をされる。

「当たり前だろっ!今年のメンバー考えろよな」
「メンバー」

鬼頭が意図するものが分からず、何度も首を傾けていると彼はしびれを切らしたのか──小声のまま──ものすごい剣幕で説明してくる。

「だから!ミスコンに出るような子っていったら、もれなく美女じゃん?知り合える機会なんてそうそうないって、マジで!うらやましい!!」

イケメンのお前さんには分かるまい。
最後に嫌味を添えられてしまった。要約すると、大学内の憧れを一身に浴びているきれいな女性と知り合う場があって良いなということだろうか。大学に入学して早々にできた彼女に、先月フラれてしまった鬼頭にしてみれば、まあ大きな事態なのは分かる。だが、こちらも一つだけ言わせてもらいたい。

「それはそうかもしれないが、俺は出場者と直接話したことはないぞ」
「えっ、マジ!?」

頷けば、彼は先ほどまでのハイテンションから一転、意気消沈した様子で「紹介してもらおうと思ってたのに」と独り言ちた。あまりにも分かりやすい落ち込みようだ。

委員になったとは言ったが、便宜上許可を出す立場にあるだけで別段精力的なわけではない。正直ほかの仕事で手一杯だった。勝手にやってくれと、必要以上の手出しはしていないし、それこそミスコンの特別委員会があるのだからそちらに一任している。

切り替えの早い鬼頭は自力で立ち直ったらしく、悠一と同じように用紙を片付けだす。

「ミスターコンテストのほうもできてから、毎年盛況だよな。とくに去年と今年」
「そうだな。でもそこまですごかったか?正直、俺はあまり覚えがないんだが」
「んー、どっちかってーと男子のほうが盛り上がってるから。俺ら的にはどーなんだろ」
「ミスコンってミスターコンテストの方か」
「あ、男って言えば!あー、なんつったっけ、二年の…女の子みたいな名前の。うわー、思い出せない」

うめいた彼が指す人物には、ひとり覚えがある。二年で一時期──というより今も──話題になっていた女性的な響きの名前の男。若干の躊躇いの後、名を挙げた。

「相沢要か?」
「あ!そうそうカナメちゃん。あの子が入ったからさー。なんかすごかった。俺は男にキョーミねぇからアレだけど」
「そうか」
「去年の実行委員?が声かけたらしいけど、話題になってたじゃん?客集めになるから出てくれーってたしか勧誘してたぜ」
「客集めの部分はぼかして誘うべきだろう。かえって参加しづらいぞ」
「いえてるー」

おまえ今年も同じ委員なら注意しとけよな、と肩をつつかれ「けっきょくコンテストには参加しなかった」と聞かされる。
たしかにそういうことに興味がありそうなタイプには見えない。むしろ声をかけた猛者がいたのか、とそちらの方が驚きだ。

先ほど智紀と交わした内容が内容だったため、つい過敏になってしまう。が、友人が下世話な噂話を持ち出してこないことに安心しつつ、そこまで人気があったのかと改めて驚かされた。知名度があるから噂され、うわさに上るから名が知られる。皮肉な話だなと悠一は思った。

「でもなんか、めっちゃかわいいんだって? 聞いたところによると」
「可愛い?」

男に使う形容詞ではないなと苦笑すると、彼も同意して笑う。しかし軽く流れていくはずの言葉が、やけに引っかかった。

(可愛い……のか?)

はて、そういうタイプの容貌だっただろうか。
ふと疑問に感じ、要を思い浮かべようとしても、何故だがうまくいかない。黒い髪と同じ色の瞳、そして銀に光る右耳のピアス。特徴はきちんと覚えているのに、肝心の顔がそこだけ紗がかかったかのようにおぼろげなのだ。理由は心当たりがあった。

(そうか。俺は相沢の顔をまともに見たことがないのか)

唯一はっきり記憶の中にあるのは、二年前、ロブの研究室の前で偶然出くわしたときのもの。それも見つめていたのは横顔である。いくらそれが痛烈な思い出だったとしても、幾度と季節が流れれば薄れゆくのはしようのない事だ。

すっきりしたような、余計にもうやっとしたような結論を簡潔に言えばひどい。せめてここで「○○系ではあるな」と言い切りたかった。これでは、どちらが知り合いか分からない。

ひきつる頬を片手で隠し「かわいい系ではなかった気がする」というふわっとした否定で返した。

「へー、そうなんだ。俺も一回会ってみてーな。同性でもくらっとさせる系男子」
「…そうだな」

一瞬、知り合いだと言いそうになった。けれど、智紀が言うにそれは要が望むことではないと思った。あいまいな言葉でごまかし、別れの挨拶の後、講義室を後にした。

悠一はその足で迷いなく休憩室へ向かった。

道すがら頭に描いたのは、智紀だった。どうやら、彼は良くジャージを着ているらしく、その着こなしはジッパーをいちばん上まであげて襟を立てる、というなんとも個性的なスタイルだ。今日ようやく気付いたことだが、その襟に指を引っかけるのが智紀の癖のようだ。智紀はその”癖”の仕草をしながらこう言った。

”あんなんでも良いやつなんですよ。相沢は”

彼のことばを信じ、当たって…まぁ、砕けるわけにはいかないが、やってみようと思う。つい数時間前までは「もう少し、待つかな」なんて悠長に構えていた考えは、あっさり手の平を返させてもらう。このまま要の意見を尊重しよう、などと甘いことを言っていたら、あっという間に卒業式の前日だ。

これはもうただの意地だと自分でも分かっている。けれど、どうしても要と話をしてみたかった。ただ、それだけだ。思い立ったが吉日。すぐに行動に移すのが自分の短所であり、長所でもあるのだから。

(とはいえ、タイミング良く相沢が休憩室にいるとは限らない、か)

猪突猛進型なわりに冷静な思考回路はすでに、要が不在だった場合の行動パターンを組み立て始めていた。目的地に着き、ドアノブを回すと、きちんと鍵が閉められていた。やはりそう都合良くはいかないか。


せっかくだからレポートでもこなしてから帰るか、とポケットから鍵を取り出し、施錠を解く。








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