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この恋、終わるか始まるか。

20話 考えておきます

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20話 考えておきます





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それが昨日、この場で起こった出来事だった。我ながら無様な逃げ方だと思う。

あれから丸一日経ったわけだが、未だ要の心は落ち着かず、どんよりとした厚手の雲に覆われていた。悠一に触れられた肩を、無意識のうちに片手で押さえる。鮮明に思いだせる、ひろい掌の感触を何度反芻したところで、体内に流れ込んできた悠一の感情は、優しさのあふれるものでしかなかった。

彼はあのとき、いったい何を思って行動に出たのだろうか。

悩みのタネは増えるばかりで、このままではきっと、近いうちに心の中で花を咲かせてしまうに違いなかった。種にとっての水は要が悠一を思った時間。だとしたらもう、それはそれは立派な花が咲き乱れているだろうな。
それをすぐにでも枯らしたいと願うのにペシミストな自分は、本人のまえでは臆病になり、使い物にならなくなってしまう。

意中は省きつつ、淡々と話した。智紀は百面相しながらも、口を挟まずにすべてを聞き入れてから、半開きになった口で独り言めいたぽそりとした疑問をもらす。

「これって話せたってことになるの?ねえ"話せた"に入れていいの?」
「会話にはなりました」
「なってるかなぁー?俺にはなってないように思えるなぁあー」
「言っていいですよ」
「何やってんだおまえ!!!」

ばん、と両手で机をたたく。
分かり切った怒声であったのに、想像の5万倍あった声量はすさまじく、椅子のうえで体をのけぞらせた。が、受け入れるほかない。今日ばかりは素直に「すみませんでした」と目をそらして謝った。

「思い付きでやったことは反省してます」
「それ、もうちょっと考えてからやればよかったって意味に聞こえるぞ…やめてくれマジで」
「だからすみませんでした」

組んだ腕、皮膚の下に血管が浮いていて「あ、これは本気で怒ってるな」と思った。あとエロいなぁとも。言わずとも邪な気持ちは透けていたらしく、智紀は舌打ちで重ねる。

「反省してる?」
「してます、ごめんなさい」
「おまえよ~~ごめんで済んだら最初っから怒ってねーんだよ。反省しろぉ。あと宮先輩に謝れぇ」
「分かりました」

怒らせていた肩を落とし、頭を抱える智紀は「胃薬もってない?」と聞いてきた。ありますよとカバンから取り出す。

「おまえそれ常備する必要ねぇくらい大胆だよ。自信持て…」

漢方じゃなくてロキソニンがいい。
そうつぶやいて突っ返された胃薬に、心労をかけたことを察した。

しかし、おかげでひとつ実感したことがある。悠一はきっとものすごく性格が良い。
薄々そうだろうなとは思ってはいたけども、昨日の一件で"だろう"は"なんだ"に変わった。だからこそ、彼のことが分からなかった。底抜けに優しいが、感情が顔に出ない先輩の考えていることなんて予想できる範疇を超えている。

(俺、性格わるいしなぁ)

加えて喜怒哀楽の振れ幅も激しい自分には、そのどちらも理解できるとは、微塵も思えなかった。善人の思考回路は難しい。

ハーブティーを淹れ終えた要が、湯気の立つそれを胃痛の先輩に差し出した。先日、来訪した和泉が手土産にくれたものだ。

「ペパーミントは胃に良いらしいですよ」
「そこの気遣いをほかに回せ」

文句と礼を混ぜて受け取る。
肩をすくめることで返事をし、座っていた椅子にふたたび腰を落ち着かせたら「それで?」と、先ほど開口一番に投げつけてきた問の答えをほだしてくる。

香りばかりは芳醇なそっけない紙コップに口をつけたタイミングで、けっきょくどうなのよと問われ、要は今の思いを正直かつ的確に伝える。

「…よく分かりません」
「あっそ」
「いきなり、それも単刀直入に噂のこときいてくるんだよ。びっくり」
「それはよかったじゃん」
「…センパイ、俺の話聞いてた?」
「あったりきよ」

どんと胸を叩く姿に言葉を失う。

今の話のどこに”良い”と判断する部分があったんだろう。端折りに端折ったため、実際の状況といささか離れてしまったのは否めないが、間違っても心温まるエピソードを語ったつもりはない。自分の伝達力はそれほど壊滅的なのか。

そう思いかけたが、いやいや、と首を振り、基本的にとんでもないことしか言わない男に若干引きながら問いただす。

「あの、何をもってしてそういう意見になったのか、俺にも分かるように説明してもらっていいです?」
「何っつったって、いい話じゃん」
「智紀せんぱい。大丈夫?前々から疑ってはいたけど、ついにおかしくなった?病院いく?頭だから脳外科かな」
「おれはすごぶる平常だからご心配なく」
「じゃあ、何で感想が"よかったね"になるんだよ」

もはやかみ合わない会話にさじを投げかけたとき、彼はハーブティ片手に、直球ストレートだが平気で200キロは出ていそうな剛速球を、何の前触れもなく投げつけてくる。

「相沢は、宮センパイに嫌われてないってわかって安心したんだろ?だから、よかったじゃんって」
「…なにそれ」
「偏見もないし、性格はいい、秀治の保証付きでおまけにイケメン。もう何の心配もないな、おめでと」

ぱちぱちとやる気なく拍手される。要はハッと鼻を鳴らして、机に身を乗り出さんばかりに否定した。

「理解があって、心も広く、いろんな人に太鼓判を押される、高身長の筋骨逞しいイケメン。心配大ありだよ。好きになったらどうするの」
「いいじゃん。好きになって、遊ぶのやめて、で、ふられろ。イイこと尽くしだな、ほほほーい」
「ふられてるじゃん、よくないじゃん!」

要の恋を応援してくれるんじゃなかったのか。
焦って声を張り上げれば「それとこれとは別」とあっさり言われる。

「おまえに、顔も良くて性格もよくて、みんなに好かれる彼氏なんてもったいねー。むかつくもん」
「清々しいほどの妬みですね」
「おー。だからせいぜい、まあまあ性格いい、ちょい顔もいい、適度な恋人見つけてくれや」
「その言葉そっくりそのままお返しします」

現在の智紀の恋愛事情など知ったことではないが、心からそう思った。
先輩なんて、つまんない女性とでも付き合っていればいいんだ。むくれてそっぽを向く。こどもみたいなことをしている自覚はあっても、この男を相手にするとどうも精神が幼くなってしまう。智紀のせいだ。

ぶすくれる要をよそに「このお茶フレッシュすぎて葉っぱの味するうける」とぐびぐび飲み干し、ケロリと話題を替える。

「まあ惚れた腫れたはさておき。これからは避けずに済みそうなの?」
「…そうですね。天気の話くらいはしようと思いますよ」
「こんっだけ巻き込んどきながらそのレベルかよ。ちったぁ環境づくりに協力しろ!」
「先輩はどうなんですか」
「おれ?」

しばらくは様子見だと彼も言っていた。
ごまかしではなく、人を見る目だけはある先輩の意見は多少なりとも興味があって聞けば、智紀は少しだけ言葉を選んでから、机に手をかけ話し始める。

「おれは良い人だと思う。その辺は、ラインでも言ったとーりかな。うん、信用できそう」
「そうですか」
「え、それでいいの?」
「見解が聞きたかっただけですから。あなたがそう思うならそうなんじゃないですかね」
「ふうん」

ふしぎそうにしつつもうなずいた。
会話は終了したらしく、スマホを取り出した。要も口をつぐむ。それきりそれぞれの時間を過ごす。しかし"講義がある"と休憩室を後にする前に、彼は立ち止まってこう聞いた。

「ほんとうにその気はあんの?」
「その気?」
「遊びじゃなくて付き合う気」
「まさか。冗談に決まってますよ。第一、あの人ノンケでしょう。敬慕したところで…」
「お前の気持ちを聞いてんだよ」

ずばっと断ち切られ、驚く。ほんの冗談のつもりだったのに。智紀は真剣な目をして見せた。

「…ありませんよ。ゼロとは言わないでおきます」
「わかった。とりま冗談でも、ああいうことはやめとけよ」
「それはやめます」
「…本気なら、応援しなくもない」

最後につぶやかれた言葉に、要は何も言い返せなかった。
はじめから返事を期待していなかったのか、智紀は「じゃあ」と振り返ることなく部屋を出ていった。その扉を見つめ、しばし立ち尽くした。

「……考えておきます」

成就することは、ないだろうけど。















*****

第一部完!です!!


次の話から、第2部に突入します。
人慣れしてない黒猫と、未確認生物とのふれあいを試みるセンパイが、徐々に近づいていく様子を見守っていただけると嬉しいです(´▽`)

あと来週は、智紀と秀治の新しいお話もお届けしたいなと思っておりますので、そちらもよろしくお願いいたします。






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