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この恋、終わるか始まるか。

21話 すみませんでした

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21話 すみませんでした





*****

「試すような真似をして、すみませんでした」

がちゃりと扉が閉まる。
それを合図に用意していた言葉を口にした。相手は、もちろん宮センパイだ。

謝ったのは、智紀に言われたからではない。礼を欠いている自覚はあったし、彼に悪意がないことも。要が最初から心を開ける人間であれば、皆に面倒な思いをさせずに済んだのだ。

どうにか震えなかった声で詫びる。悠一はその場で静止したと思ったら、ゆっくりとまばたきをして、すぐに表情を打ち消しこういった。

「気は済んだか」
「ええ。…でもそれ、本人が言うことじゃないですよ」

いささか気まずい。彼はほんとうに怒っていないらしく、そうだなと一言すぐ横を通り過ぎ椅子に腰を下ろした。相変わらずのリアクションの乏しさは恐ろしいが、今日ばかりは逃げることはできない。

仕方なくため息を殺して席に戻る。対面に座って思ったのは「座高低いなぁ」だった。心底どうでもいい。でも進歩じゃないか?

悠一は観察するように要を見てきた。鋭い瞳のなかに自分が写っている。怖い。冷汗が止まらない。そらしたくなる気持ちを抑えつつ、しかし完全には抑えきれず、悠一の前髪に入ったメッシュを見つめていた。部屋にある微風でふわふわとゆれるやわらかそうな髪。許可が下りるなら、ぜひ触りたい。

自分の様子がどう映ったかはわからない。が、ふいに悠一は居住まいをくずした。

「おまえも三浦も正直者だな。わざわざ謝らずとも、そのままにしておけば良かっただろう」
「そこまで不義理じゃないですよ。…一身上の都合で失礼をしましたが、あなたのことを、敬遠するのはもうやめます」

言外に、その他は警戒続行だと零せば「たいへんだな」という顔をされる。その表情はやけに理解があって、ふしぎに思った。

「何でとか聞かないんですか」
「おおまかな事情は三浦から聞いた。行動は褒められたことではないが、慎重になること自体を否定はしない」
「…身に覚えがあるから?」
「そうだな」

彼自身も、噂話のたぐいには良い思い出がないのだと口ぶりが物語っていた。

要もいくつかの噂を知っている。暴君だとか、冷徹だとか。当時は「ふうん」とてきとうにしていたが、知り合ってみれば"根も葉もないこと"だったんだと分かった。裏を返せば、話してみなければ真偽は闇の中というわけだが。

(そういう意味では、仲間なんだろう、けど…)

じわじわと背中に汗がつたう。めったないメンバー以外との交流は、自分に敵意がないと分かっていても胃に大ダメージだった。しかし脳に反してはらんだ思いが口を突く。

「あなたも」

落とした声は小さかった。けれど、悠一は聞き取って「なんだ?」と問うた。

「あえて聞いてこなくてもよかったのに?警戒されてるのに気づいているなら、放っておいても」
「確かにな」

同調するのか。行動といささか矛盾している。それとも一度は考えたが、気が変わったとかか。首をかしげた所作で疑問が伝わったのか、悠一は答えてくれた。

「たいした理由はない。しいて言うなら性格だろう。気になるとそのままにしておけない」
「なるほど?」
「そうだな、あとは」

そこでいったん言葉を切る。ふしぎに思い、視線を向けるとばっちり目が合った。強く鋭いまなざしにじわりと心が濡れる。いやだなぁ、追い出したくて頭をふりかけたとき、止めていた言葉が続く。

「どこか…ほっておけない雰囲気があるな。おまえ」
「はい?」
「一目見たときから気になっていた」

低くいい声でささやかれる。
サァーと風のせせらぐ幻聴が聞こえた。心なしか、悠一の派手な髪もなびいて見える。

あれ口説かれてる?と思った要は、悪くないはずだ。

(天然?ジゴロ?…言葉選びが独特なのかな)

これは勘違いされるだろう。とんだギャップが隠されていたと内心驚く。しかしそんなわけがあるかと、妙に冷静な自分は表立ってうろたえることはなく、薄く笑ってみせた。

「それはどうも。失礼ついでにもうひとついいですか」
「何だ?」
「人のいる場所では極力話しかけないでいただきたいんです。いろいろと面倒なので」
「なぜだ?と言いたいところだが、分かった」

意識すると、とんでもなく目立つ存在なのは思い知った。先日の出来事を想起しながら言う。要はほっとして「ありがとうございます」と返した。

「何か用事があれば、この部屋にいるときにでも」
「話しかけてもいいのか」
「…その言い方は意地悪ですよ」

もう避けないのかと言っているようなものだ。目をそらして責める。悠一は「悪い」とすぐに謝ってきた。やはり思ったことがそのまま口に出るタイプなんだなと、少し彼の性格が読めた気がした。

しかし「だが」と続けられた言葉には、さしもの要も目を瞠った。

「その言い方だと、用がない時はしゃべりかけるなと聞こえる」
「そうは言っていませんが。おしゃべりなほうではないので」
「質問に答えろ」
「だから"そうは言っていません"。ただ推奨はしませんよというだけです」

念押しして言えば「なんだそれ」と、わずかだが口角に笑みをのせた。びっくりする。悠一は自覚がないのか、それとも軽く笑った程度で要が驚いていると思い至らないのか、指摘はしてこなかった。

「推奨はしないが、禁止はしないという解釈でいいんだな。」
「そんな、言質はとったぞみたいな顔しないでくださいよ。困ります」
「困るのか」
「…警戒するしないにかかわらず、口下手なんです」
「そうは見えないが」
「でしたら、近々お目見えするでしょうね」
「そうか。楽しみだな」
「は?…そうですか」

あっさりと告げる悠一に、もういいかなという気分になってくる。この人、ちょっと変わってる。








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