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この恋、終わるか始まるか。

22話 試した理由を問いたい

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22話 試した理由を問いたい





*****


外はしとしとと雨がふっていた。この部屋は窓が大きい。降り注ぐ雨の音すらも聞こえそうなほど、外の景色がよく見えた。たいして進んでいないレポートに向かい、ぼんやりとしていたとき。

ばたんと扉が開いた。

「…相沢」
「お疲れ様です。宮先輩さん」

滞りなく口にできた要ってえらくないか?

扉の前に立っていたのは、宮悠一だった。相変わらず高身長と厳しい目つきに、機嫌悪いのかなと思ってしまう。たぶんそんなことないんだろうけど。というか、もし要の顔を見て機嫌悪くなったのなら泣く。

のしのしと近づいてくる悠一に恐怖しながら「どうぞ」とここは後輩らしく椅子を示した。

「ああ」
「…何か飲まれます?」
「いや数十分もしたらまた戻らなければいけない」

ありがとうと律儀に礼を言われ、本当に教育が行き届いているなと思った。そして忙しいんだな。智紀のように「そう言わず」と押す意味もないので、そうですかと腰を下ろした。

悠一は席に座るとすぐに紙束を取り出した。A4サイズのプリントは、予算、企画、予定されたイベント、そのスケジュールなど多岐に渡る。一通り目を通すだけで気が遠くなりそうだ。これにコーヒーぶちまけたりしたら泣くに泣けない。無理を押さなくてよかった。

(邪魔しない。これが一番だな)

いつになく正しい判断をしたと自分を褒める。無言は耳に痛いが、悠一が会話を所望していないなら黙っていてもいいだろう。今日は、智紀や涼に怒られずに済みそうだ。

要も勉強をするポーズをした。生憎と先輩とふたりきりの状況で文字が頭に入ってくるほど、まだ彼に慣れてはいない。ちっとも進まないプリントから視線を外す。
ページをめくるふりで悠一をさりげなく見た。あちらは集中できているらしい。つらつらとペンを動かす、その骨太で節くれだった指先に目を奪われる。長めの前髪が二重のあたりにかかっているのが、いやにセクシーだった。

(というか、ほんっとうにイケメンだな…小鳥遊さんレベルじゃないか?)

要は芸能人に明るくない。身近にいるイケメンと言えば、前代表様くらいだ。比較対象の乏しさに胸が痛む。

鋭さのあるつり目に、筋の通った形のいい鼻、ちょっと頬骨が高く男性的な魅力のある顔立ちはハーフさながらだった。というか、ハーフなのかな。ぜんぜん知らない。悠一はこわいけど、観賞用としては最高の部類だなと、ぼんやりその面立ちを見つめていたら。

「…なあ」

まさか話しかけられるなんて思わないじゃん?
完全に気を抜いていた要は、一瞬反応が遅れて「なんですか」と動揺して返す。

「前回聞きそびれていたことがあった。良いか」
「は…え、ああどうぞ」
「おまえは俺を"試した"と言ったが、結局何が目的だったんだ?」
「…気づいてらっしゃらない?」

もとを質せば、悠一が噂のことを聞いてきたから焦って行動に移してしまったのだ。そちらこそ意図があったのではないのかと、予想外の質問に質問で返してしまうが、悠一はよく響く声で「ああ」とだけ言う。

「噂の…話はそちらがしたと記憶していますが」
「そうだな。そういえば、あれも嘘か本当かはおまえの口から聞けていないな」
「嘘ですよ?……8割くらいは」
「残りは」
「ご想像にお任せします」

ここで事実を語るわけにはいくまい。
冷汗ではぐらかせば悠一はそれ以上は聞いてこなかった。でも不満そうな顔をしている。たぶん。これは本当に厳しい表情じゃないか。

せめてもうひとつの質問には答えようと、要はうすい唇を開いた。

「目的と言われると言葉に詰まりますが…そうですね、ただ知りたかっただけ、なのかもしれません」
「俺の人となりが? それにしてはまとわりくどいやり方だな」
「直接聞いてもよかったんですよ。でも、口は嘘をつけるから」

我ながら理由として弱い。しかしながら、本音でもある。
突っ込まれてしまうかなと思ったが、悠一は「そうか」とうなずいてくれた。ふむと顎に手を当て考えこむ。ペンは止まっていた。

考えがまとまったのか、ふいに顎を上げ端正な顔を向けてきた。やけに真剣な表情である。そしてどこか好奇心に似た──知らないことを知りたいみたいな、探究するような雰囲気をはらんでいる。

「つまりは、確信を持てさえすれば方法は何でも良かったのか?」
「というと?」
「俺が、たとえば何かの会話の折に、おまえやおまえに関するうわさに偏見がないと語っていれば、行動に移すことはなかったのか、という意味だ」
「…んー」

すぐには答えが出せず目を伏せる。

難しい質問だと思う。それこそ"口では何とでも言える"という話だが、内容いかんによっては信用に足ったかもしれない。
返答に迷うと同時に、面白い発想をする人だなと感じた。要は机のしたで組んでいた足をなおした。

「正直分かりません。けど、その可能性はあったのかも」
「だったら、相当リスキーなことをしたな」
「僕もそう思います。あとで先輩には怒られました」

ぺろりと明かせば、悠一も「そうだろうな」とちいさく笑った。

「試さずとも、ほかに方法はあった気がするな。それこそ会話の中から聞き出すことも、不可能ではなかっただろう」
「自分の目で確かめたかったというのはありますね」
「俺は信用に値するか?」

くっと片眉をあげるその表情。意地悪で驚いた。実は遊び心がある人なのかな。要も応戦するように、にやりと笑みをかたどった。わざとらしく首をかしげてみせる。

「ふふ、どうでしょう?」
「そこははぐらかすのか」
「いえ、言い切ってしまっては面白くないかな、と。信用はしてますよ。でも、あなただって俺のこと、100パーセント信頼しているわけではないでしょう?」
「どうだかな」
「あ、ずるい」

飛び出たため口にも、からかいを持たせた発言にも、悠一は指摘はせず鷹揚に受け入れていた。その懐深さにこそ、信用できてしまうなと思ったのは、やっぱりずるいと感じた。







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